癖の強い米国リベラルアーツ大学を紹介します

 

なんと、最後の投稿から1年経っていました。

今回は新しく、自分の通う大学について投稿したいと思います。

長いんですけど、(我が愛する)大学の理念と、一番最後に自分がこの大学を選んだ理由を語ってみたので読んでもらえると嬉しいです。

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私は、メリーランド州アナポリスにある、St. John's College(以下SJC)という大学に通っています。

日本ではほとんど知名度がない大学なので、これを機に調べてもらえると嬉しいです。

 

海外大志望者ならば誰もが訪れるであろう、大学ランキングサイトのUS NEWSによれば、

全米のリベラルアーツ大学の中で全米67位にランクインしているみたいです。

ちなみに、海外大学向けの奨学金に申し込もうとするときに、その大学が一定ランク以内に入っている必要があったりして、進学前は結構、ランキングは気にしていました。

結局、SJCにはその独特なカリキュラムに惹かれて入学したんですけどね笑

 

SJCの在学者数は600人弱。

とても小さな大学です。

なんでこんなに小さい大学なのか、

どうして私がこんなに小さい大学を選んだのか、

その理由を少し説明したいと思います。

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まずSJCはリベラルアーツ大学です。リベラルアーツの大学は、

総合大学よりも小規模で、個々の学生に合ったキャンパスライフを提供するよ、といったところが一般的なイメージかと思います。

 

でもリベラルアーツの本当の意味は、元来古代ギリシャの哲学者たちが考案した概念にさかのぼります。Grammar, Logic, Rhetoric, Geometry, Arithematic, Astronomy, Musicの 合計7つの分野を学問の基礎に据えた学術体系を指すらしいです。

 

「アーツ」って入ってるから絵とか描いたりするのかな?っていうのはちょっと違うんですよね〜。

 

私が思うに、リベラルアーツ大学では専門的な分野に特化して学ぶ総合大学とは違って、様々な学問のつながりを捉えることに重きを置き、物事を多様な側面から考える力を養うことを目標としています。

 

そして、私の通うSJCはこのリベラルアーツの理念を他のリベラルアーツ大学と比べて、100倍濃縮したようなプログラムをもって成り立っています。

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紋章にもリベラルアーツの語源を表す7冊の本が描かれています。
体育館の真ん中にもこのロゴが描かれてますw

そのカリキュラムは簡単に説明するとスリーステップ。

1. 古典を読む

2. 教室に足を運び、聞く、喋る

(なお、世界がパンデミックしている間はオンラインに置き換えられました)

3. 学期末に執筆をする

 

そしてこのシンプルなカリキュラムをSJCならではのものにしているのが、

1. チュートリアル(Tutorials)

2. ゼミ (Seminar)

 です。

 

この1.のチュートリアルでは古典ギリシャ語でプラトンを翻訳したり、ニュートンの著作を読んでプレゼンしたり、ラボラトリーでフェラデーの実験を再現したりと、Math, Lab (Music), Languageの3つの教科の専門的な内容をバシバシ、インプットしていきます。

 

2.のゼミでは古代ギリシャから20世紀の哲学者まで、西洋文化の基盤となっている著作をゴリゴリと読んで、週に2回、2時間、みっちりディスカッションをします。

そして1と2に共通する大切なことは、「原書に触れる」ということ。

例えば、4年生になってから取り扱う量子力学の分野では、実際にアインシュタインの書いた論文を読んで、それと補足のマニュアルを同時並行で読みつつ、光や電気の物理学史を学んでいきます。チュートリアルでは数学は小学校の頃から苦手だった私が、論文内に書かれている方程式の意味をプレゼンしたりします。

物理だけでなく、ギリシャ語のチュートリアルではギリシャ悲劇を原語から英語に翻訳したり、音楽のチュートリアルならパレストリーナのミサ曲の楽譜を見ながら対位法の分析をします。こうして、西洋文化に影響を与えたものに関して、文理のジャンルを問わず原著にあたることで、誰かの解釈を学ぶのではなく、自分自身の意見を形作っていくことができます。

 

なのでSJCでは、

・小学校から高校まででなんとなく覚えた公式がそもそもどう成り立っているのか?

・聞いたことはあるけれどよくは知らない哲学者(アリストテレスとかソクラテスとか)が何を考えて何を書き残したのか?

・身の回りで前提として扱われいることって本当に正しいの?

 

みたいな疑問を、原書を読むことで深堀りしていくことができます。

今まで当たり前として捉えていた知識を、原書を読む行為を通して再発見→検討すると考えてもいいかもしれません。

 

「高校の図書室で、誰も手に取らないホコリを被った分厚いあの本が、こんなに生き生きとした内容だったなんて!」と難しそうな本に対しての偏見も段々と無くなってしまいますw

 

ということで、この癖の強いカリキュラムで学生一人ひとりの成長を見ながらやっていくには、500人くらいの規模でないとやっていけない、ということもなんとなく納得してもらえると思います。

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 正直な話をすると、

この時代にこんなにも時代に逆行したことをする大学に、進んで来たいと思う学生は多くありません。

リベラルアーツ大学を哲学専攻(そもそもSJCではみな同じカリキュラムに沿っているので専攻という概念がないのですが。)で卒業して、どこに就職できるのか?という不安は高校生であっても当然考えるところです。

(実際、SJCのAcceptance rate(合格率)が高いという事実もSJCの需要の無さを裏付けていると思います。)

そういった現実的な観点から言っても、SJCが小さな大学である理由がわかります。

他の理由としては、学費が高すぎてアプライすらできない、とかもあると思います。

(Financial Aid や奨学金を取れたとしても、教育ローンの返済に苦しんでいる友達、学費の支払いが滞り退学する友人を何人も見てきました。)

とは言いつつ、2018年にやってきた学長は

1. 学費の値下げ

2.$35000から値上げをしない公約 

3. $300million のファンドレイジングキャンペーン

を実行してファンドレイジングもほぼ達成しているいうことで、結構いい仕事をしてくれました。

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脱線しました。

とにかくマイナス面も含めて、それでも私がSJCに来たい、と思えたのは、SJCのカリキュラムがどうしても魅力的だったから。普通に考えれば、世間体や卒業後の進路などを考えて、もっと「賢い」大学選びができたことは事実です。

 

それでも高校を卒業する前の私が「今自分が一番欲しいものは?」と考えた時、この大学に身をおいて、文理を超えた勉強を通じて自らの教養を深めること以上に、自分がワクワクする選択肢はありませんでした!というか、「これしかないな。」と思うくらい、自分にとってぴったりの進路選択だったと思います。この決断をした自分と、この大学生活を支えてくれた人たち全員に感謝しているし、今は大学生活が本当に充実していて楽しいです。

 

なので、もし海外大学を志す高校生がこの記事を読んでくれていたら、大学選びはランキングや世間からの見られ方は参考程度にしつつ、「この大学で自分のしたいことができるか?」という視点で最終決定をしてほしいなあ、と思います。なぜなら、自分で決めたことはあとになって辛くなっても頑張れるから。私も、大学の勉強がハードなときは、「でも自分で決めたよなあ」と思い返すと頑張れます。

 

最後何の話やねん、て感じになりましたが、以上、私の通う大学紹介でした。

読んでいただいて、ありがとうございます。